園・学校の皆さまへ
学校薬剤師がいなくても別に問題なく園の保健衛生をがんばってきた!がんばっている!と誇りを持っていらっしゃる園の先生方が多くいらっしゃると思います。
学校薬剤師の必要性
①学校薬剤師は薬の専門家です。
園内の薬品管理はどうされていますか?
学校薬剤師は専門家の視点から一緒に考えることができます。
②学校薬剤師は環境衛生の専門家です。
プールの消毒はどうされていますか?
園内で流行性感染症の予防はどのようにされていますか?
専門家として論理的な視点から一緒に考えていきませんか?
③学校薬剤師は学校保健に関しての情報を持っています。
保護者の方も含めての保健指導は取り組まれたことがありますか?
まだ乳児・幼児であるお子さんの健康・保健・安全に関しての知識や習慣は、保護者の方と共に習得していくことが大切です。学校薬剤師と一緒に勉強していきましょう。
また、園の安全・環境衛生に関する法律もあります。順守することで、より良い園の環境となっていきます。園の先生方と一緒に取り組んでいきましょう。
学校薬剤師の探し方
では、どうやって学校薬剤師を探せばよいのでしょう。
① 園の関係者(園児の保護者さん、園の活動に関わっている別の団体の方など)で薬剤師をされている方はいませんか。学校薬剤師になってもらえないか相談してみましょう。
② 学校薬剤師をやったことのない方からは、できないと言われるかもしれません。けれども、社会貢献の一環として園の子ども達のために何かしたい、という思いのある方であれば、ぜひ説得してみてください。
③ ただし、学校薬剤師はやるべき職務がいくつもあります。名義だけではいけないのです。その内容を勉強し職務遂行するために、地域の学校薬剤師会に入会していただくことが肝要です。
④ 学校薬剤師になってやってみよう、という方が見つかりましたら、地域の学校薬剤師会に相談してみましょう。
令和4年度 保育士キャリアアップ研修会にて
先日(令和4年8月31日)開催されました保育士キャリアアップ研修会に参加した学校薬剤師から報告です。園のみなさまにも、学校薬剤師にも、学校薬剤師になりたい!と思う方にもぜひご一読いただきたいです。
「保健衛生・安全対策の意義について」~学校環境衛生管理業務を通しての理解~
残暑の中、令和4年8月31日、サンフォルテにて富山市認定こども園協議会主催の保育士等のキャリアアップ研修会が行われました。
この研修会は、保健衛生・安全管理に関する理解を深め、個々の子供たちの発達状態に応じた保育を行う力を養い、保育士等が適切な助言及び指導ができるよう、実践的な能力を身につけることを目的として毎年行われており、今年度は140名の保育士等の参加でした。
教育、保健現場において、専門分野に関してリーダー的な役割を担う富山市内に勤務される保育士等を対象とし、4日間にわたり災害、疾病、感染症、児童虐待、保健衛生・安全管理など様々な研修が実施されます。『保健衛生・安全対策』分野においては、富山県学校薬剤師会会長の宮林紀子が講演しました。
2時間にわたる講演のため、すべての内容を報告できないのが残念ですが一部ご報告させていただきます。
こども園においての「リスク」と「リスクマネジメント」
まず、こども園においての保健衛生・安全対策、リスクとリスクマネジメントについて考えてみましょう。保健衛生と安全対策の管理項目が、十分でないとどんなリスクがあるのでしょうか。
健康管理が不十分であれば、感染症拡大やケガの発生リスクがあります。調理施設の衛生管理が不十分であれば食中毒の発生につながります。環境衛生管理が不十分であれば、感染症拡大、化学物質過敏症、アレルギー疾患やアトピー、喘息などの誘発、快適な教育環境の維持ができなくなります。そのほか、プールの安全管理など多くの管理項目があります。
すべての管理項目を多忙な保育業務をしながら環境衛生活動を実施していくことは、保育士にとって困難です。また、保育士は、日常的に教室内の空気汚染(においや空気のこもりなど)、水道水の異臭・濁り、照明の暗さなど何となくリスクを感じるとることはできます。
しかし、可視化や数値化したエビデンスがないため、そのリスクがどこからきているのか分からずリスクマネジメントすることができません。
学校薬剤師の出番
そこで学校薬剤師の出番です。学校薬剤師は、測定機器を用いて環境衛生検査を可視化、数値化することで専門知識をもって指導、助言できます。実際に環境衛生検査で用いる検査器具の実演をし、検査器具一式が高額であることに会場はどよめいていました。
定期的な学校環境衛生検査は、学校薬剤師が行い、日常的な学校環境衛生点検は、学校職員が行うことでリスクマネジメントが可能になります。
法律はどうなっているのか?
次に法律の面から考えてみましょう。
認定こども園法第27条において、幼保連携型認定こども園では、乳幼児や教職員の健康や安全を守るために「学校薬剤師」の設置義務があります。また、学校保健安全法第5条、第6条において環境衛生検査の実施が学校設置者に義務付けられています。
現在(令和4年8月)、富山市内の認定こども園70園に対し富山県学校薬剤師会会員が担当しているのは36園。残りの34園は、どうしているのでしょうか。
何の問題も無かったのに
「今まで学校薬剤師がいなくても何にも問題がなかったのに。保育園から幼保連携型こども園に変更したら、なぜ、設置義務が必要なのか。学校医ではだめなのか。」認定こども園側は、戸惑いがあったと思います。実際に会場で「学校薬剤師を知っている方はいますか。」と宮林先生の質問に対し、手を挙げる保育士の方はいませんでした。学校薬剤師の認知度の低さを痛感しました。
問題が無ければいいのか?
学校医は、子供たちの症状の有無による判断となり、たまたま症状が出ないことがあります。症状がでるまで何もしなくてよいのでしょうか。ここで事前のリスクマネジメントが必要となります。保健衛生と安全対策の管理項目が対応できていれば事故を未然に防ぐことができます。感染症もゼロにはならないが感染拡大を最小限にとどめることができます。
学校薬剤師がいない、学校薬剤師がいても学校環境衛生検査が未実施であることは、法律に対応しておらず保健衛生、安全対策が未対応のままです。富山県において、こども園における環境衛生検査の実施を確認、推進する動きがでてきています。
安全な場所となるために
こども園の保健衛生と安全のために学校薬剤師は、設置者の依頼により環境衛生や安全管理にかかわる検査をすることで検査結果をもとに指導・助言を行い、設置者は、指導助言をもとに改善対応を行い、保護者への公表、保護者からの質問に答えることができます。それにより保育者は衛生的な環境を提供し、保育所は安全な場所になるのです。
また、保健衛生・安全対策を学校職員と連携することは、子どもたちが安全を察知できる能力を育んでいく体制を整えることにもつながります。
「先生、何しているの?」
講演を通して改めて学校環境衛生管理業務の重要性、学校薬剤師の存在意義を感じました。私の担当している認定こども園では、環境衛生検査を実施すると必ず子どもたちが質問してきます。
「先生、何しているの。これは何に使うの。」「これで、安全なお水かなって調べているよ。」そんなやりとりがあります。学校薬剤師は、こども園、小・中・高等学校と長期にわたり薬事衛生に携わることができます。
子どもたちが、生涯において自己の健康管理を適切に行う能力を身につけてもらえるように学校環境衛生管理業務に励んでいきたいと思います。
(令和4年9月)