プール検査
「水泳プールにかかる学校衛生環境基準」に基づいた学校の水泳プールの検査です。
プール水検査も飲料水の検査同様に外部委託している学校もあるでしょう。けれども、プール環境や施設設備のチェックは外部委託ではされていないことが類推されます。検査結果は開示してもらい、薬剤師が目を通してみましょう。
学校薬剤師が採水や検査を行っていなくても、その結果と施設整備、プール消毒用薬剤の保管状況等の検査実施結果をもって指導助言を行うことが学校薬剤師のプール検査です。
検査の概要
「水質」と「施設・設備の衛生状態」の検査に分けられます。
プールの原水は飲料水の基準に適合するものが望ましいとされています。そうでない場合(飲用に用いていない井戸水や河川水を用いる場合)は別途プール開き前の検査や水質管理が必要となりますが、ここではプール原水が水道水の場合の検査概略を示しました。
学校のプールサイドに検査へ行く前の準備、学校へのお願い
- もちろん水着を持参し自分で採水すること、オッケーです!プール利用者目線も確認できますので是非!ですが、無理な場合は学校の先生に採水をお願いしてください。
- プール管理日誌、現地検査のためのDPD試薬、BTB試薬と検査機器を準備してもらいましょう。それ以外の検査機器・試験紙を使用している場合はもちろんそれを準備してもらいましょう。
- 更衣室や機械室、トイレなどプール周辺設備もチェックさせてもらう旨を伝えます。
- プール水の取水場所の環境チェックも行うことも伝えます。
- 採水サンプルは迅速に検査センターへ持参しますが、時期は夏です。できれば保冷バックを使用して採水後はすぐに冷たい保冷バッグ内へ。
- プールサイドへはできればビーチサンダルがあればよいかもしれません。確認を。
- 水を触るので必ず手は濡れます。ハンカチやタオルを持参しましょう。
水質
基準では『⑴~⑹は使用日の積算が 30 日以内ごとに 1 回、検査項目⑺(8)は、使用期間中の適切な時期に 1 回以上定期に検査を行うものとする』となっています。
- 遊離残留塩素
- pH 値
- 大腸菌
- 一般細菌
- 有機物等(過マンガン酸カリウム消費量)
- 濁度
- 総トリハロメタン
- 循環ろ過装置の処理水
富山市の場合
富山市の場合、一部外部委託の項目がありますが、学校薬剤師が現地で採水します。
採水前に
採水者、検査する薬剤師共に採水前には手指をよく洗い、できればアルコール等で消毒しましょう。
さあ、採水!
① 採水容器の確認
採水1ポイントにつき、理化学検査のための1Lポリ瓶、細菌検査のための200mL滅菌済みポリ瓶が1個ずつです。
滅菌袋に貼ってあるラベルをはがし、ポリ瓶に貼ります。
② 採水ポイント
「遊泳用プールの衛生基準について」厚生労働省健康局生活衛生課通知(平成19年5月28日健衛発第0528003号)に準じ、プールの対角線上のA、B、C地点 (端2点及び中央1点)です。サブプール(小プール)は先の通知上、“そのプールの形状に応じて適宜”と示されていることから、富山市ではD地点(中央1点)とします。どちらも水面下20cm付近で採水します。
先生に採水のためプールに入っていただきました。長方形(短水路)のメインプールは対角線上の3ポイントで採水します。
③採水
★1Lポリ瓶
- 水中に容器を沈める
- ➡ 水中で蓋を開けて少量の水を入れ、中をすすぐ。水を捨てて蓋を閉める
- ➡ 再度水に沈め、水面下20cm付近で蓋を開けて採水 。
- ➡ 瓶の肩のあたりまで採水したら水中でふたを閉めて採水終了。
★滅菌200mL ポリ瓶
- 容器の口や蓋の内側に手指が触れないように注意して
- ➡水面下20cm付近に容器を沈める
- ➡水中で 静かに 蓋を開けて そっと採水
- ㊟ 中はすすがない
- ㊟ “ゴボッ”とビン内の空気が出ないように、そっと!
- ➡瓶の肩のあたりまで採水したら、水中で静かにふたを閉める。㊟水は瓶からあふれる前に蓋をすること!
沈めてからふたを開け閉めするのは、表層の浮遊するゴミを入れないためです。
また、200mLポリ瓶には塩素を消すための薬剤が入っています。ゴボッと水が入るとその薬剤が流れ出てしまう恐れがあるため、瓶をすすがず、静かに採水します。
④現場検査
1Lポリ瓶より水を分取し、遊離残留塩素濃度とpHを各ポイントで測ります。
比色測定器でpHを測定する場合です。セルに水を入れました。
※試験紙、デジタル測定機などを使用する場合も採取した水を使用して測ります。
pH測定。BTB溶液をいれたところ
ひとつの比色測定器でpHと遊離残留塩素を測定する場合でしかもセルが共有の場合は測定後のセル洗浄を忘れずに。
また、試薬を入れた水は少量でもプールやオーバーフローへ捨てることのないように。
今度は遊離残留塩素の測定。試薬を入れて直ぐの色をチェックします。
DPD試薬を入れて放置すると段々ピンクの色が濃く発色します。時間経過したピンク色は正しい濃度を示しません。迅速なチェックを。
測定値は記録します。採水時間、気温、水温も記録を。採水サンプルはできれば保冷バッグに入れ、施設設備の検査後速やかに検査施設へ持参しましょう。
次は施設・設備の環境衛生検査
プール施設、付属設備の設置・管理の状況、ろ過機など機械室の状況、プール用薬剤の管理状況、プール水取水口の状況などと、日常点検の状況をチェックします。
- 採水検査当日の実施が時間が無いことなどから難しければ、日を改めての検査でも構いません。
- 事前に聞き取りをしておくとスムーズでしょう。
チェックするところの例をあげてみます。
プール周辺に床材の剥がれなどは無いでしょうか。また、オーバーフロー溝や排水用の溝の有無によって、指導助言は変わってきます。
プールの取水口も見に行きましょう。ゴミや土砂に埋もれていることはありませんか?
近年の紫外線の強さは半端ないですね。プールサイドにはテント設営の準備がなされていますか?その数は足りそうでしょうか?強風などにあおられないよう、対策はされていますか?
その他にも、
★AEDの設置状況、万一の際にどのルートで誰がAEDを取りに走るか決まっていますか?
★万一、事故やAEDが必要な事態が起こった場合、緊急連絡するマニュアルは掲示してありますか?
★消毒剤は、他の洗剤や薬品と別にし、整理整頓して保管してありますか?
★日常点検票はしっかり記入されていますか?水温気温、pH、遊離残留塩素濃度の記載はしっかりあっても、排水溝の蓋の丈夫さなど、設備に関するチェックはなされていますか?
などなど、楽しい安全な大事なプール授業のため、『衛生』と『安全』の両方のチェックと指導助言を!
検査は終わりましたか?
プール水の現場検査、施設整備の環境検査が終了したら、全体的に状況をまとめ、校長先生に報告をします。それから迅速に採取した水を検査施設へ持参しましょう。結果が出ましたら、速やかに学校へ報告を。
プール検査をしない場合
2020年度(令和2年度)はCOVID19拡大防止のためや、授業数確保のためなどでプール授業を取りやめる学校が多くありました。
プールが開所されなければプール検査もないわけですが、プール用薬剤(消毒剤、中和剤、除藻剤など)の保管やプール設備についてなど、メンテナンスの指導助言は継続して行いましょう。
プール用薬剤(塩素剤)などについて
プール用の薬品の適正管理は子どもたちの安全のために大切です!
- 塩素剤は中和剤、凝集剤、他の掃除用洗剤と一緒に保管しない。整理整頓!
- 保管場所は通気をよくしておくこと。
- 塩素剤は床に直接置かないこと。
- 保管場所に雨が吹き込んだり、湿気を帯びたりしないように配慮すること。
- 固形塩素剤は強力な酸化物質(発火、爆発の危険性)です。
- 違う種類の塩素剤の接触で容易に発火爆発 大量の塩素ガス発生の可能性があります。プール消毒用薬剤と、除藻剤(これも塩素剤です)は違う種類の塩素剤です。
- プールで使用するものは該当しないものの、次亜塩素酸カルシウム、トリクロロイソシアヌル酸は消防法第1種危険物です!
よくある質問
みんなが『あっ!』と思った緊急時に、すぐにどうすればいいかわかるような表記がしてあることが大切です。『緊急連絡マニュアルが判りやすいところに表示してあるか』と理解していただけでばよいかと思います。
ですから、
①プールサイド
②プール日誌ファイルの裏表紙など
に、そのマニュアルが表示してあるのが良いでしょう。誰でも直ぐ見ることができ、誰でも直ぐ行動がとれるような場所でないと意味がありません。
さて、緊急時は職員室に連絡するだけでよいでしょうか?
AEDはプールサイドに設置してありますか?万一の時にすぐ取りに走れますか?
学校によって状況は違うと思います。でも、学校には「安全管理のフローチャート」があるはずです。それに沿って「プール緊急連絡マニュアル」を作ってもらいましょう。もちろん既にあるのであれば、それを利用し、そして先生方みんなが情報共有していただきましょう。(R3年6月)
プール開き前なのであれば、清掃することがまず肝心かと思います。冬の間中入れ替えもせず屋外にあったプールの水をろ過機にかけるとあっという間に壊れてしまうでしょう。清掃を行い、給水してもなお茶色である場合は次に対応を考えよう、とするのがよいと思います。(H29年度)
プール水のpH基準は「5.8以上8.6以下であること」です。
消毒用の薬剤によってpHが酸性側に傾きやすいものとアルカリ性に
傾きやすいものがあります。
●次亜塩素酸カルシウム (スタークロンPT100、ハイクロンTB100等)は
アルカリに傾き易い
・弱アルカリ性(pH9~11)の場合は補給水を増加
・強アルカリ(pH11以上)pH調整剤(酸)で中和、または全換水
●塩素化イソシアヌール酸(ハイライト90GHn、ハイライトエースGプラス、
ハイライトニューエースTnなど)は酸性に傾きやすい
・弱酸性(pH3~5)の場合は補給水を増やす
・強酸性(pH3以下)の場合は
pH調整剤(アルカリ)で中和、または全換水
という対応が基本となります。中和剤(pH調整剤)を添加してpHは基準値範囲内に収まりましたので、今後は補給水を増やし、消毒剤の量を薬剤注入器設置業者と相談しながら調整をしてください。遊離残留塩素濃度とpHの両方をよくチェックして遊泳してください。 (H30年度)